●ピロリ菌を勉強しましょう
■最初は言葉から
正式にはヘリコバクター・ピロリといい、Helicobacter pyloriとつづります。
「helico」は“らせん(ヘリコプターのヘリコと同じ)”、「bacter」は“バクテリア(細菌)”を意味
します。また「pylori」は“ゆうもん(胃の幽門部)”をさしています。
■どんな細菌ですか?
数本のべん毛をもった4ミクロン(4/1000mm)位の大きさの細菌で、人の胃の粘膜に好んで生息して
います。この細菌は胃の中の尿素を使って、アンモニアを作り出し、胃の強い酸を中和することで、
中性の居心地のいい環境を自ら作り出して生きています。
(大塚製薬資料より引用)
■感染時期は?
ほとんどの感染は、胃酸の分泌や胃粘膜の免疫能の働きが不十分な乳幼児期に成立すると考えられてい
ます。様々な追跡調査などから、日本では初感染時期は1〜2才までが最も高頻度であるといわれてい
ます。
■感染率は?
全人類の約半数がピロリ菌に感染し、日本でも5000万人以上が感染しているといわれています。日本
人は先進国の中では感染率が際立って高くなっており、40才以下では先進国型であるのに対して、40
才以上では発展途上国型を示し、40代では50%、60代では70~80%になっています。
■感染経路は?
ほとんどの感染は人から人への経口感染といわれています。離乳食が開始される時期に、母親から乳児
への口―口感染経路が大きな要因と考えられています。小児における感染経路のほとんどは家庭内感染、
特に母子感染と同胞内感染です。その他に、便、歯垢、嘔吐物などからの感染が考えられます。また、
“内視鏡を媒体とした感染”も取りざたされており、内視鏡の厳重なる消毒・洗浄が不可欠です。
■ピロリ菌感染によってどんな病気になるんですか?
1)胃・十二指腸潰瘍:潰瘍の原因はピロリ菌感染と非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)の
2つに集約されます。ピロリ菌感染があって初めて、ストレスや胃酸が潰瘍発症のリスクファク
ターになるのです。
2)消化管外病変:虚血性心疾患、特発性血小板減少性紫斑病、慢性蕁麻疹、鉄欠乏性貧血。
明らかな証拠はありませんが、ピロリ菌を除菌することによって、病態が改善したり、疾患の予
防効果が報告された事例などが蓄積されつつあります。
3)胃がん:ピロリ菌感染が胃がんを発症させる明らかな証拠はありません。しかしながら、長い期間
のピロリ菌感染による持続的慢性炎症の結果として、萎縮性胃炎への進展が胃がんの発症
リスクを増大させると推定されています。さらに胃がんの発症には過剰な食塩摂取などのピロリ
菌感染以外の因子との相互作用も重要です。
1994年にWHOでは、ピロリ菌をcarcinogen(発がん物質)と認定しています。
■ピロリ菌感染の診断方法は?
1)ピロリ菌感染の診断は除菌治療することを前提とします。
潰瘍の除菌治療のための感染診断であり、潰瘍以外の診断は保険の適用になりません。
2)内視鏡を使う方法と内視鏡を使わない方法に大別されます。
それぞれの検査法には長所短所があり、簡便性、信頼性、経済性などで選択します。
内視鏡を使う方法は、検査時に採取した生検組織を用いますが、内視鏡を使わない方法は、
感度や特異性が高く、高齢者や小児でも可能な“息をふく”だけの簡単な「尿素呼気試験」
が推奨されています。
■除菌の方法は?
日本で保険適用されている除菌療法は、
プロトンポンプインヒビター(PPI)+アモキシシリン(AMPC)+クラリスロマイシン(CAM)
の3者併用です。3種類の薬剤を朝・夕の食後2回、1週間服用します。
最近ピロリ菌のクラリスロマイシン耐性による除菌率の低下が取りざたされています。
■除菌が必要な病気は?
ピロリ菌の除菌治療の適応疾患は、3つのカテゴリーに分類されています。
1)除菌治療が勧められる疾患:胃・十二指腸潰瘍
2)除菌治療が望ましい疾患:萎縮性胃炎など
3)除菌治療の意義が検討されている疾患:消化管以外の疾患などが検討されています。
現在、1)の胃・十二指腸潰瘍のみが保険適用になっています。
■まとめ
1)ピロリ菌陽性の胃・十二指腸潰瘍は、潰瘍の治療・除菌治療・除菌判定を行う。
2)ピロリ菌陽性の萎縮性胃炎と診断を受けた場合は、年に1度胃カメラをする。
3)ピロリ菌陰性の非ステロイド性消炎鎮痛剤による胃・十二指腸潰瘍は除菌治療しない。
4)症状の有無に関わらず、40才以上の方は年に1度胃カメラをする。